以前に元密徒だと仰る行者さんとメールのやり取りをさせて頂いた折に、少しばかり人間の欲望につき議論させて頂いたことがあった。
其の折に行者さんは人間の欲望で断ちがたいのは性欲である、其れこそが欲望の基礎、基本であるとの仰せだった。
対してわたくしはむしろ食欲の方がより断ちがたいのではないかと述べて置いた。
或いは自分は食欲がある方なのでそう考えたのかもしれない。
ところでわたくしの知り合いにはー仕事上のー一人変人が居り其れがまるで飯を食わない男である。
彼は私より一歳年上だが老けて見え70歳前後位に見える。
ちなみにわたくしの場合は大体45歳位に見られ易い。
実年齢よりも15歳近く若く見えるのである。
すると実際には可成に年下の女共から同年代だと思われ付き合いが開始される可能性もある訳だ。
ところが肉体的にはすでにダメージを受けて来て居るつまりは部分的には老化して居るのでそういうのがわかるとギャー、このおっさん嫌だなあと思われることだろう。
そうか、すると我に限れば若い姉ちゃんと付き合えぬわけでもない訳だ。
其れでもって若い姉ちゃんとねんごろになり酒池肉林の限りを尽くす。
わー、スバらしい人生だ、六十にして立つ、身も心もかの姉ちゃんのさ中に埋没する。
が、何故か話題が合わぬ。
其れもそうで、そう言えばわたくしの頭の中身は実年齢が今丁度九十三歳であった。
仕舞った、つひ其れを忘れて居た。
実は六十代の女でもすでに話題が合わぬ。
八十代の女位だと丁度いい感じがして居る。
特に戦前の話題などにつき盛り上がることが多い。
尚食が細いと云うか食事を疎かにして居ると必ずや人間は病気になる。
事実其の男は現在入院中で其れももう一カ月に亘り会社を休んで居る。
然し、食わないこと自体が病気なのかと言えばどうもそうではなく第一修行僧などはモリモリ飯を食い食う事自体を楽しむ訳では決してない。
むしろ食うこと自体を楽しむこと、食い過ぎること自体が病気なのであり謗法なのである。
が、少食も度を越すと結局は病気になり周りに迷惑をかけることとなる。
もう一人知り合いが居てソイツは中学校の七年後輩である。
此の男は女だらけの家族の中で生活し宗教や真理領域とはまるで縁のない人生を歩んで来て居るが頭は良く進学校を経て大学さえ出て居る。
ところがコイツがまさに女好きなのだ。
つひ先日は自分に彼女が居たことを自慢げに話して居た。
其れも女房子供ー娘及び娘の婿と同居ーと共に住みながら他に彼女が居たのである。
其れでソイツは五十を過ぎた頃に脳出血と癌を患い仕事がダメになって仕舞った。
ところが此の男、利口の癖に教養には欠け其の反面自信だけは大きなものを持って居る。
其れでいまだに女には人気があるのだ。
何と言うかどこかセクシーだとでも云うのだろうか。
しかもそれほどの顔でもないのである。
何故此の男がそんなに女にモテるのか。
此の男、実はSEXを否定して居ないのだ。
たとえ癌でも女の本性での仕事の部分を否定していない。
ですが考える男、教養のある男はやがて女の本性を暴くに至りついでにSEXの動物性即ち本能の部分を否定することともなる。
どうもそういうのこそが女の嗅覚に引っかかり寄って来なくなるのである。
でも女好きの其の男には何故か女が自然と寄って来るのだ。
だから其処からしても女は鋭敏な嗅覚を備えた動物である。
そして真理領域だの哲學だのと云う事はむしろ女にとっての敵であり危険そのもののことなのだろう。
逆に其の自信があるフリン男こそが女には理解がし易いことだろう動物男なのである。
ですが、コイツに限ればタダの不倫男優なのではなくなかなか骨のあることも言って居た。
女はバカだから優しさの本質が見抜けないだろうと私が言うと先輩、其の通りです、と言う。
女はバカだから教育が必要です、オレは結婚三十年ですが其処はちゃんと教育して来ました。
ですが病気になったのでもはや母ちゃんには頭が上がりません。
家のローンも払えないので娘婿に半分払わせて居ります。
でも自信はあるよ、自信が無いと兎に角女は口説けませんよ。
そう、其の自信、つまりは妄想による過信、実はコレがコレこそが女を口説き落とすことの為の切り札だ。
ところが実は何処にも力はない。
其の男にはローンと家族が残るばかりで教養も何もない。
それでも自信があるのだからもしや性的に馬力があると云うことなんじゃろうか。
さて吾輩は読書家であり真の教養人である。
古今東西の書を読破して来たことによりまた元々頭が良いゆえ思考力の方が並ではない。
しかるに君はどうか。
いえ、ボクは本は読んでません。
ずっと女といちゃついて来てますのであっちの方は詳しいですが勉強はして来てません。
ただ自信はあります。自信が無いと兎に角女は口説けませんよ。
うーむ、しっかしこんな男に何故ホレるのか、世の女共よ。
あっちの方に詳しい動物男こそが汝等にとってのイケてる男ではないのか女共よ。
そして自信、其れも根拠なき自信、精神の深みとは無関係な動物力、そうしたものに否応なく惹きつけられる動物としてのメス共の痴態醜態が今私にはハッキリと見えて居る。
ただそんな彼に私は部分的に共感したのである。
其れも彼が意外と男らしい意見を持って居たからだ。
彼にとってほんたうの優しさとは見かけの上での優しさのことではなく男の度量であり包容力のことだった。
そして彼は其の度量なり包容力をあえて引き受けて生きる世界をこれまで選んで来たのだ。
女の嗅覚はそんな彼の決意の様を確りと嗅ぎ取って居たのである。
ですがいつも人類滅亡とか何とか言って居る私にはおそらくは何か危ない匂いを其処に嗅ぎ取っていることだろう。
或いは其れは我が発する精神の破壊臭なのやもしれぬ。