左様に「ゴルフ離れ」が止まらぬさうである。
其れも世界的にさうであるらしい。
ただし個人的にはさして残念だとは思わぬ。
わたくし達はゴルフをやって来られたのだしあと何年続けられるものかは分からねどおそらく生涯クラブを手放すことはない。
むしろザマアミロだ。
こんな面白ひ御遊びは他に無くまたこんな健康的な御遊びも他に無い。
こんな素晴らしひゴルフをやらずにおらりょうか。
だから其の楽しさを知らない奴は可哀想だと言うておるのだ。
ゴルフと家庭のどちらを取りますか?
と言われた場合に迷わずワシはゴルフを取る。
だから其れぞ遊び人だ。
遊び人に限りゴルフとは縁が切れぬ。
もうまるで腐れ縁だ、腐れ縁。
思へばアノ時、アノ三十代の頃、女と家庭を築かなんだのがゴルフを続けてやれた最大の理由だ。
だが悪ひ遊びももう其の時に止めた。
だからむしろ至極健全になったのだ。
酒、さうして女、さらにパチンコ、麻雀などのギャンブル。
さうしたヤバい世界に背を向け山登りをしたり石を採集したり、また球を打ち続けたり仏教や哲學を学び続けたこと。
おお何と清き生活だ。
まさに修行僧のやうなまるで蓮の花の如き生活だ。
其のやうな禁欲的なゴルフの意義に世間の人々はまるで気付いてなど居らぬ。
左様に世間の者共は皆無知であり感覚音痴だ。
然し我は独り藝術を追求して来た。
文學に於ける其れと肉体に於ける其れとを。
確かにゴルフはヤバい、危険だ!
何故危険なのか。
追求すればする程其れに嵌って仕舞ふからなのだ。
まずは金がかかる。
練習代だけで最低月五万はかかる。
さらにクラブの費用が其処へ加算される。
おおコレはどうしても欲しひ。
と思わせるやうなニュウモデルを各メーカーは次から次へと販売し其れを我我ゴルフバカが我を先にと買ひ求めアレ打ってみたらまるで自分には合わぬではないか。
其れも八万もするドライヴァーばかりで、そんなものを買へば練習費と合わせるとすでに13万だぞ。
おまけにゴルフコースへ出れば最低二万はかかる。
プレイ費が安くなったとはいえ食事代、交通費を入れればまず二万はカタい。
するともう十五万だぞよ。
其れも月に一回コースへ出ただけなのに。
では月に三回コースへ出たとして一体幾らになるのだ?
そりゃあ二十万をこしちゃうだらう。
そんなものは然し明らかに放蕩だ。
勿論家庭があればとても付き合ひきれぬ。
ところが家庭の有無ばかりでのことでもない。
なので実はゴルフどころではなひ。
ゴルフどころかたとへお一人様でもなかなか生きていけぬ世になった。
即ち合理化があらゆる面に及び人間の余裕を失くして居る。
人権だの自由だの平等だの言うてる割に実は人間を極限まで圧迫しておる。
ひとつには其れは學者の責任だ。
さらにシンポ主義革新思想の責任だ。
ゴルフのひとつ位出来ぬで一体何の為の人生ぞ。
一体何の為の資本主義だ。
そんな資本主義などもうやめてまへ。
資本主義ならゴルフのひとつ位やれるのがあたりまへのことじゃらうが。
だからゴルフは宗教だ。
宗教のやうに清廉潔白だ。
タダゴルフは自然を破壊しておる。
ところがだ、ゴルフ場へ行くと実は自然が一杯だ。
無論其れは本来の自然には非ず。
だからゴルフ場など皆止めて仕舞へ。
と云う潔癖な環境主義思想も分からぬではなひ。
其は確かに正しひ。
だが人間とは矛盾の動物だ。
我我がゴルフ場へいく。
するとお花畑などもありとてもキレイだ。
木木に囲まれたゴルフコースはとても静かでしかも空気が良ひ。
ハーッと其処で深呼吸などして見給へ!
アアー、まさにイイ香りだ。
コレぞ新緑の香りだ。
ココからも腐った都会の空気の中に居てはみんな死ぬぞ。
腐った都会のシステム=腐った人間の思考の中に居てはコノすがすがしさを味わふことなど出来ぬ。
其のやうに宝石の如きゴルフを何故我我から奪ひ去るのだ現代文明はさうして資本主義は。
其れにナイスショットの快感はどんなものにも勝る。
無論のこと勉強よりもまた女よりも上だ。
其のやうにゴルフに嵌りし我は幸せだ。
さうずっと幸せであった。
他のなにものも我をしてかように幸福になどして呉れなんだ。
むしろ皆悩みを与へた。
より正確に言へばモノマニアでの方も思ふやうには得られないと云ふ辛さがあらうからゴルフよりも苦が多ひ。
だがゴルフはひとたびクラブを揃へれば其れを二十年使ふことさへ可能だ。
だからほんたうはさう道具代がかさむばかりでもなひ。
しかも健康にさへなれやう。
要するにコースでも練習場でも空気の良ひところで長時間運動するので体にとっては至極良ひことなのだ。
特にガン、コレに良ひのではないかと最近思ひ始めて居る。
即ちストレスの解消、と云う面で極めて大きな力を持って居るのではないか、ゴルフは。
特に人間関係でのモヤモヤ。
アノバカヤローを其のままにバカヤローとは言へぬのが世の常なので其処で齎された鬱屈した感情を球を叩くことで、タダ球を叩くことでスッカリ解消することさへもが可能だ。
我等は常に球をブチ殺してやらうと思ひつつ叩いて居るので其処でもってほぼ完全に怨念は解消し逆に練習後に力が漲って来る。
つまり至極スッキリする。
だから最近はもうゴルフが一番ではないかと思ひ始めておる。
されど其の思ひとは裏腹にいつかゴルフは滅びるであらう。
其れは資本主義の崩壊や地球の生態系の破壊よりも早くさうなることであらう。
1.皆金が無ひ
2.皆時間が無ひ
3.ゴルフは難しひ
との理由で皆ゴルフからは逃げていくのじゃ。
特に3.はゴルフ滅亡に於ける最大因ともなることだ。
ゴルフは極めて難しひのでどちらかと云ふと難しひ性格の人にしか向いて居なひ。
我もまた難しひ人間なので逆にピッタリ合って仕舞って居たのだ。
たとへば基本的に凝り性でくどひ人に向いて居りしかも負けん気の強ひ人。
常に自分は何かを持って居るんだと云ふ妄想を抱き絶対におまへらなどには負けやせん、おまへらに勝つのはまさに屁こくやうなものだ。
カンタンに勝てると云ふことだ、どうだ参ったか、わーはっはっはっはー。
と云ふ位に己惚れて居なくてどうする。
また我はプロにも負けぬ、との異常な己惚れさへもが必要なのだ。
無論のこと普通の社会では其れは通らぬ。
然しゴルファーに限れば実際にプロをしていてこましたる位のプライドがないと決してプロ球を打つことなど出来ぬものだ。
結論としては左様にゴルフは近く滅ぶスポーツだと云ふことだ。
近く滅ぶがゆえに絶滅危惧種としての魅力を内包するスポーツだと云ふことでもある。
思へば其の熾烈な新製品の開発競争も全くもって異常な加熱振りでさうした傾向をおかしいと感じて居るゴルファーもプロ、アマを問わずに大勢存在して居たのが事実。
此処からしても異常なまでの進化、異常なまでの革新振りはむしろ其の分野の滅亡の兆候を示す事象なのであり本来ならば其れを喜んで眺めて居てはいけないのだ。
さうした視点からゴルフを見詰めればゴルフとは非常に人間的なスポーツでもまたある訳だ。
人間らしくつひやり過ぎちゃいましたが、其れでもって確かにクラブばかりは良くなりました。
ところがいざ良くなったクラブを買ふ人が随分と減っちゃいました。
だからもうクラブつくるの止めます。
ゴルフ事業からは撤退です。
もう将来もないことですし。
お客は決まって年寄りばかりなのですし。
まさにゴルフどころじゃない諸の破壊も忍び寄って来て居ることでせうし。
さうか、まさにアノ恐竜のやうなもの。
今や其の絶滅種こそがゴルフなんだ。
だが我我にしてみればじゃからこそ愛おしひのがゴルフなのだ。
どだい絶滅モノ程愛おしいものなど此の世に無い。
さうしてゴルフは絶滅しやうがかのゴルフタマシヒは永遠に不滅です。
其はわたくしの肉体にしかと刻まれまた死後の世界でも暴れ出すことでせう。
さうです、わたくしはたとへ天国でもまた地獄でもゴルフをやります。
300Yショットをまた必ずや復活させてみせます。
おや、いい球打って居られますねえ、ソレ長尺ドライヴァーでせう?
いえね、そこいらでさっき買って来たのです。コノシッカリしたシャフトが気に入って。
ドレドレ、はあー、コレはいかにもヘッドが難しさうだ。
でもコレが振れるオタクは凄ひパワーですねえ。
もしや野球などやってませんでしたか?
其の通りで三番バッターでした、大した高校ではなかったですが。
それじゃあもうコレで打ってみて下さい。
とんでもない長尺でデカいヘッド付ですよ。
ウーン、シャフトがSRで柔らかいかなあ。左へ飛ぶかもね。
うわーやっぱり引っ掛けた。
ではコレです、コレはイイですよー、コレは。最高のクラブだ。
四年前のジオテックのクロトですね、シャフトはXSでアナタのパワーにもピッタリだ。
パシーン。
うわー、確かにちょっとイイなあ。
ドッシーン。
ヒエ―、びっくらこいた。最高の当たりが出た!
いやー、あんな当たりわたくしでもこれまで出たことがありません。
アンタ幾つですか、わたしゃあもうすぐ還暦ですが。
アレ、僕も今五十九です。
ジオテックを早速ネットで調べてみます。
ジオテックに限らず今のクラブは皆高いのでオークションがおススメです。
私のはたまたまオークションに新古品が出てまして関東から引いて来ました。
何と三万五千円で手に入りこれまでの四年間で三十萬円分程の働きをして呉れました。
でもネットに届かないので。
でもギリギリ届ひてるじゃありませんか。
我等此処まで腹が出るとまるで届きませぬ。
三年前までは全部ネットの中段に当たってたんですがねえ。
うわー、凄ひなあ。
まさにプロ級のパワーだったんですね。
いや、七十のジジイでも其の位飛ばす人は居ます。
ただ其の爺さんは今は来てないです。
七十過ぎるともうゴルフどころではないやうです。
だがアンタのパワーもまた凄ひ。
流石はかっての三番バッターだ。
何処の打席で打ってますか?
一番左、其処がわたくしの指定席。
じゃあまたいつかね。
とのことでゴルフは実に楽しひ。
またクラブが欲しくなって来た。
欲しひ病が再燃してまたズルズルとゴルフの魔力に引き込まれていくわたくし。
が、酒や女やギャンブルに引き込まれる訳ではない。
心身の鍛錬とゴルフ仲間との交流の為にかうしてゴルフを続けるのだ。
が、ほんたうはナイスショットの快感の為に止められぬのだ。
300Yとまでは今はいかぬが260Yショット位なら今でも打てる。
其の球が出た時の快感はもはや此の世のものではない。